幸せを感じる、 主語が自分じゃない
ものづくり。

SUNNYSIDE FIELDS
ショコラティエ 取締役
八十川 恭一

ショコラティエとして長年経験を積んできた八十川さん。
サニーサイドフィールズでは責任者として、生産者さんと一緒になったものづくりをしています。
ここでのものづくりは、今までの常識とはまったく違うものでした。
そのカギは「主語は自分じゃない」ところにあると、八十川さんは教えてくれました。

八十川さんの日々のお仕事から教えてください。

日々の業務としては、サニーサイドフィールズという施設の運営管理をしています。同時に、ショコラティエというチョコレートを作る仕事をしていて、生産者さんと交流したり、生産者さんだけではなくうちのお店と協力してくださる方とのコミュニケーションを取ったりなど、いろいろなことをしています。

「人を巻き込んでいく」お仕事という感じでしょうか。

いや、巻き込むというのは違います。僕たちのものづくりの考え方なんですけれども、基本的に、主語は「僕たち」じゃないんですよ。
よくあるのは、ものを作りたいから商品を仕入れるという考え方だと思うんです。「おいしいショートケーキを作りたいから、おいしいイチゴが欲しい」とか。そこで自分が主語になっていることにちょっと嫌気がさしていまして(笑)。だって、農家さんがいないと、僕たちはもう、何もできないんですよ。だったらもっと農家さんにフォーカスが当たるべきじゃないかと。
「僕たちが作った美味しいもの」ではなく、「農家さんのことを伝えるためにものづくりをしている」。 ここはチョコレートというものづくりが得意なので、それを生かして「農家さんの作っているおいしいものをお客様に届けて、伝えている」という考え方。ものを作るにあたってはメッセージ性を重視しています。なので、巻き込むのではなく、どんどん巻き込まれたいって感じです。

普通だと、売り上げがあって、そのためには何をどれだけ売って、
だからこういうものを仕入れてという流れになりそうですが、逆なんですね。

僕自身、過去にはそういう時期もありました。でも、常に新しいものを作らなきゃとか、これが流行ってるから、なんて考えることに疲れてしまって。
でも農家さんのところに行ってお話すると、商品ってすぐできちゃうんですよ。例えば、この前もイチゴ農家さんにお会いしたんですけど、ハウスが近くだからちょっと見に来てくださいって言われてついて行ったら、イチゴのことをいっぱい教えてくれたり、ミツバチをとても大事にしている話もしてくださって。
僕たちは、その人が大事にしていることを商品にしただけで、結果として、商品を通して農家さんのことをお客様にお伝えしている。メッセンジャーと呼んでください(笑)。

八十川さん自身、サニーサイドで視点の転換のようなことがあったのでしょうか。

パティシエをしていたら厨房にこもって商品ばかり作っているので、農家さんのところに行く機会なんてないんですよね。でもサニーサイドフィールズに入って、実際に農家さんが何を大事にして、どうやって育てていて、こんなことを頑張っていますということを聞くだけで、商品ってできるんだなっていうことに気づきました。
そのときに「暉くちから」っていう言葉の意味がはっきり分かった感じがします。それまでは「自分が輝きたい」でしたけど。
いろんないいものがいっぱいあるから、それにフォーカスを当てる仕事。このお店がきっかけになって、農家さんから直接買っていただくお客様が増えるのが一番理想かなと思っています。ここだけで完結するんじゃなくて・・・何か、「循環している」というか。
農家さんの作ったおいしいものを使わせてもらって、ここで売って喜んでもらえたら終わり、じゃなくて、さらにそこからまたお客様が農家さんのところに行ったりとか。ここで食べたものが美味しかったから、また別のものを発見しに再訪してくれたりとか。みんなが入ってきたり、出て行ったり、また戻ってきたりみたいな。そんな感じがあります。
経済と社会と文化の3つが好循環しないともの作りっていうのは成り立っていかないという多田の考えに僕も共感していて、大事にしています。お店を見ていただいたら分かると思うんですけど農家さんの名前や詳細も、商品の説明としてすごくしっかり書いています。
でも、買ってもらうために接客をしなさいっていうことは言ったことがないんです。だって嫌じゃないですか、「この商品を、お客様に何十個売りなさい、そのために試食させなさい」って。うちのスタッフみんな、素材とか、生産者さんのことがすごく好きで、それをお客様にもいっぱい知ってもらいたい。だからたくさんお話をすると思うんです。よくも悪くもすごく夢中になっちゃって、声がかれちゃうこともあるんですけど(笑)、それはそれでうちの良さかなと思っています。

お客様と友達になろうと言っていますよね。

そうですね、フィールズのコンセプトなんです。「境界線を曖昧にする」って言っているのですが、僕たちもと産者さんは「仕入れ先と販売元」という関係じゃない。お客様とスタッフも「売り手と買い手」ではない。友達みたいなものなんですよね。そうなればなるほど、良さもちゃんと伝えられると思うんです。

ここでこんな人と一緒に働きたいというものはありますか。

常識的な部分は一旦置いておいて僕の考え方になっちゃうんですけど、管理者をさせていただいていると、スタッフがここにこのまま一生いてくれるとは思わないんですよ。でもその限られた在籍期間を振り返った時に「ここにいた時間はもったいなかった」と思われるのは、いちばんいやなんです。何かその人にとってプラスになればいいなということは、ずっと思っています。
結構いろんなジャンルの仕事があるので、その人が得意なことや好きなことが仕事になったりするんですよね。そんなものなんてないという方もうちに来て「これってこんなに面白かったんだ」なんて新しい発見をして、結果的に自分の得意なことになったり、商品になったり、人生がちょっと楽しくなったりするような場所にしたい。僕は、何もできない人なんて誰もいないと思っているんです。
専門学校にも授業しに行っていますが、生徒さんに「ここは楽しい」って言われることがあって、ちょっと嬉しかったですね。僕はあんまり上下関係にこだわりがない。縦よりは横のつながりの方が強いと思っているんです。仕事していると僕もよく怒られますよ、スタッフの皆さんに。いや、怒鳴られるわけじゃないですよ(笑)。意見をもらったりしています。
でも、これって、対等じゃないとできないんですね。対等で意見を言い合えないといいものは作れない。
ものづくりの考え方とか、結局作って何を伝えたいのかとか、そういった人としての厚みを育てる自信はあります。そういう理念のもと、ここで育った人が独立とかした際は、間違ったものづくりはしないんじゃないかと思う。若い人たちにはそういった本質を考えて、これから先を頑張ってほしいなと思っちゃいますね。

八十川さんにとって、働くことは幸せですか?

幸せ・・・僕自身というよりも、最初に話したように主語は自分じゃないと思うと、やっぱり喜んでくれる方がいらっしゃることが大きいですね。
たとえば花梨を栽培している農家さんとチョコレートを一緒に作る中で、いろんな方にその農家さんを知っていただくことができました。先日はテレビにも取り上げられて。農家さんが「たくさんのことを伝えることができた」と喜んでお話されるのを聞いて、嬉しいなと。幸せかと言えば、それは幸せですよね。
売り上げも大事ですが、サニーサイドには「見えない相手は思いやれない」っていう言葉がありまして。それが自分にも響いています。ものづくりをずっとしていると、周りのいろんな人が見えるわけですよ。 「あの人の花梨はそろそろできたかな」とか「いちご農家さんはいま忙しいんだろうな」と考えるようになる。
自分が主語だったら「これをどうおいしく作るか」とか「他のお店がやっているこれをやらなきゃ」と考えているかもしれません。そういった意味では今の環境は幸せですね。ものづくりに意義がある、そこが幸せだと思います。